ケイティ・マッキンストリー・スタイロス、ドロミテでParallel World(D15+/16)を女性初完登

planetmountain.com
訳=羽鎌田学

イタリア、ドロミテ高地にあるドライツーリングの象徴的なエリアとなっているケイブ、トゥモローズ・ワールドで、3月18日、ケイティ・マッキンストリー・スタイロスがParallel Worldを女性クライマーとして初めて登った。

水平に張り出した巨大なルーフの縁に沿って登る長さ60mのこのルートは、2018年12月にポーランド人クライマー、ダリウシュ・ソコウォフスキーがDTS(ドライツーリング・スタイル:ドライツーリングにおいて、フィギュア4とフィギュア9を使わずに登るスタイル)で初登し、斬新なグレード、D16をつけた一本である。これまで、初登者と同じスタイル(DTS)で再登したのは、2024年5月に登ったブルガリア人山岳ガイド、ヴィクトール・ヴァロシュキン、ただ一人である。

一方、このルートの第2登は、初登からわずか1カ月後の2019年1月に韓国人クライマー、クォン・ヨンヘがオンサイトで成功した。ただし、彼はヤニロ・スタイル(フィギュア4)を使ったので、少し簡単に登ることができ、彼がコメントしたグレードはD15+。その後、マッテオ・ピロン(2021年)、クリス・スノーベック(2023年)、ケビン・リンドラウ(2024年)が、それぞれヤニロ・スタイルで再登したが、彼らも、そのグレードをD15+としている。

ケイティ・マッキンストリー・スタイロスにとって、Parallel Worldのヤニロ・スタイルでの再登は、これまでで最も難しいクライミングであり、また同時に、ドライツーリングを実践する女性クライマーたちにとっても、画期的な成果であった。そこで私たちは彼女に直接コンタクトを取り、詳細を聞き出すことにした。

ケイティ、完登おめでとう!なぜ、このルートを選んだのですか?自宅近くにあるわけでもないのですが…

2022年に初めてトゥモローズ・ワールドを訪れて以来、毎年通い続け、今回で4度目の訪問です。私はこの岩場のとりこになってしまったのです。訪れるたびごとに、着実により高難度のルートを登れるようになっています。そこにあるルートを片っ端から登りたいと思わずにはいられません。素晴らしいルートばかりで、それらはドライツーリングのベンチマークとなっています。私の家は地球の反対側ですが、家の近くにこのような規模、質のルートがないので、毎回訪れるだけの価値があるのです。

初めてParallel Worldを見た時、どう思いましたか?そして初めてルートに触れた時の印象は?

初めて誰かがトライしているのを見たのは、2022年の初めてのツアーで私がEdge of Tomorrow(D13)とOblivion(D14)をプロジェクトに据えてトライを重ねている時でした。当時、Parallel Worldはまったく私の手の届かないところにあるようでした。昨年2024年秋に初めてこのルートにトライした時には、特にその1年前の2023年に登ったA Line Above the Sky(D15)と比べて、すぐにその難しさに気付き、衝撃を受けました。

最近、ダリウシュ・ソコウォフスキー(初登者)が、初登以来発見され追加された2つのホールドを取り除き、オリジナルの核心ムーブを復元していたのですが、昨年秋の初めにトライした時、すぐにそれに気付きました。この復元により、ルートの最難パートが再び姿を現したのです。これは、ルート上の他のどのムーブよりも大きく、より厳しいパワフルな2つのムーブからなるシーケンスでした。

トライは順調に進みましたか?何度も落ちてしまうような核心はありましたか?セッションごとの進捗は、どうでしたか?

昨年の秋、初めてルートにトライした時、核心のムーブではとても苦労しました。最初の核心は、右方向への私のリーチ目一杯のところにある取りにくいホールドまでの大きなムーブ。そしてその直後にもう一度右方向への大きなガストン・ムーブが続きます。このムーブは非常にパワフルで、且つ正確さが求められます。この2つのムーブは別々にこなしてもハードなのですが、繋げるとなると一層ハードになるのです。

昨年の秋には、主にこれらのムーブに焦点を当ててトライしていました。私は着実にスタートから最初の核心ムーブの始まりまで登ることも、また第2の核心であるガストン・ムーブの次のムーブから終了点まで登ることもできるようになっていたのですが、一向にそれらを繋げることができないままでいました。粘りましたが、最後には手ぶらで家に戻ることになりました。帰宅後は、自宅のジムにシミュレーション・ルートをセットし、パワー・エンデュランスの獲得に特化したトレーニングを行いました。そのうちに、シミュレーションで実際と同じムーブを試みると、はるかに達成可能で、成功の確率も高くなり、すぐに繋げて登ることができるようになりました。

今回のParallel Worldをターゲットにした2度目のツアーでは、日々のセッションは非常に実りあるもので、比較的短期間で完登に持ち込むことができましたが、それは昨年秋の2カ月間にわたるトライ、さらに自宅でのもう3カ月間のトレーニングを経ての再トライの結果だったのです。

実際の完登トライは、どうでしたか?途中、かなり苦労しましたか?

レッドポイント・トライでは、ようやくすべてが完璧に整ったようでした。その日登り始めると、ルートがあたかも自分の体の一部になっているかのように快適に感じました。3日前には終了点から2ムーブ手前まで迫っていたので、自信さえ持てば、その日は完登できると考えていました。また終了点目前で落ちてしまうのではないかという不安もありましたが。登っている最中は、落ち着いていて、全体を通してレストでの回復が順調でした。前回のツアー以来のトレーニングの成果が明らかに表れていたのです。核心となるムーブを無事こなした後は、持ち前の持久力を発揮でき、終了点近くまで落ち着いて登って行くことができました。それでも最後の最後には、落ち着きを保つのに苦労しました。2度取りそこなった最終ホールドを、やっと3度目で捉えて終了点にクリップした時は、信じられないような気持ちでした。1年間の取り組み、2度の海外ツアー、ルート上での30日間のトライを経て、ようやくこの目標を達成できたことは、信じられないほどの満足感と感動を私に与えてくれました。

なぜ、ヤニロ・スタイルを選択したのですか? 次回は、DTSで挑戦しようと思いますか?

Parallel Worldをヤニロ・スタイルで登ったのは、最初にドライツーリングを学んだ時以来ずっとそのスタイルを使って登ってきたからです。私は、それぞれのクライマーが自分に一番合ったスタイルで登ればいいという考えを強く支持します。DTSで難しいルートにトライすることは、それはそれで楽しいでしょうが、今はヤニロ・スタイルでのトレーニングしかしていないので、今度は特にDTSを練習するために多くの時間が必要になってくるでしょう。今のところは、難しいルートに挑戦する前に、より簡単なDTSルートから始めるのが現実的でしょう。

自分はもっとできる、やろうと思いますか?

もちろんです。精神的にも肉体的にも少し休んだ後、ドライツーリングで自分をさらに追い込むのが楽しみです。ただ、自分の限界レベルでのクライミングは疲れるものです。適切な休養と回復がなければ、燃え尽きてしまったり、怪我をしたりするリスクがあります。将来的には、マッテオ・ピロンのAletheia(D16)やクォン・ヨンヘのAscension(D15+)にトライしたいですし、アメリカやカナダにあるルートにも挑戦してみたいと思っています。

Parallel Worldはあなたに何を与えてくれましたか?

言葉で正確に表現するのは難しいです。このルートは、これまで登ったどのルートよりも私を追い込み、より多くの労力を私に求めました。それにより、私はより強くなり、クライミングの弱点を克服し、プロセス全体を通して忍耐と信頼を学ばなければなりませんでした。Parallel Worldが私に与えてくれた最も重要な教訓は、自分自身を完全に信じることの大切さです。私がこのルートに、そしてこのグレードにトライする初めての女性クライマーだったので、私の能力で本当にできるのだろうかという疑問、不安が生まれてしまいました。その自信のなさを克服し、このルートを登る能力が自分には絶対にあるのだと信じることが、成功にとって不可欠だったのです。

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