「クライミング専用」に振り切った アークテリクスの新作ソフトシェル「セラタス」

文=小川郁代

防風性、撥水性、通気性などを備えるソフトシェルは、糸や生地構成によって厚さや機能のバランスなどを自在に変えることができる自由度の高い素材だ。そのため、「ソフトシェル」に分類される製品のなかには、実にさまざまなタイプが存在する。

アークテリクスのソフトシェル「ガンマ」シリーズにも、数種類のモデルがラインナップされているが、今季新たに登場した「セラタス」は、従来のガンマシリーズには属さない独自の位置づけにある。「ガンマ」が、どちらかといえば季節や気温、運動量などの環境を軸にした設計で、多用途に使えることを重視しているのに対し、「セラタス」は、テクニカルなクライミングシーンに用途を絞り込んだ、明確なコンセプトのもと作られている。

ジャケットとパンツに共通するのが、2種類の耐久性に優れるソフトシェル素材を組み合わせたハイブリッド仕様が採用されていること。防風性と通気性をバランスよく備えた中厚手の生地をベースに、熱のこもりやすい部分に通気性の高い薄
手生地を配することで、アルパイン環境に必要な強さと快適性を確保している。

レギュラーフィットのフーディは、クライミング特有の腕の動きに着目した設計。脇下から腕の内側までを一枚のパーツで構成するパターンが、腕の上げ下げを妨げる要素を排除する。素材が薄くしなやかなので、腕を下ろしたときのモタつきもない。背中にも同じストレッチ素材を大きく使うことで、複雑で大きな動きにも柔軟に対応し、アームホールを大きめにすることで、肩まわりの自由度を最大限に高めている。ほかにも、ビレイ時に欠かせない2ウェイのフロントファスナーや、袖のずり上がりを防ぐ手首のアジャスターなど、細部のデザインやパーツのチョイスも、すべてがクライミング中の快適性を最優先したものだ。

パンツは、膝下から裾に向けてわずかに細くなるシルエット。やや短い丈で足さばきがしやすい。太ももや膝の丸み、膝を起点にねじれるような下腿など、関節の動きをイメージさせる形状は、一般的な登山用パンツとは一線を画す。さらに特徴的なのは、裾の内側に、アルパインクライミングを想定したラミネートパッチを備えること。シェルのフードによくみられる、生地の間に芯地を挟んだもので、クランポンや岩からのダメージを軽減するだけでなく、強風時に裾のバタつきを抑える働きもする。エッジガードほど硬くないので、ロールアップやドローコードで裾を絞ることも可能。はき心地を損なうこともない。ウエストまわりは、センターから左右にずらした極細テープアジャスターや、横方向の力で外れにくいスライド式のフラットボタンなど、すべてがハーネスと重なることを前提に設計されている。

実のところ、ある程度の機能と動きやすさがあれば、何を着てもクライミングはできる。しかし、わずかな手間や小さなストレスを解消することが、パフォーマンスを大きく後押しするのも事実。汎用性を捨て、クライマーのわがままをかなえることに振り切ったニッチなソフトシェルの価値は、間違いなく壁と向き合うクライマーにしか理解できないだろう。

アークテリクス セラタス フーディ
価格: 5万94000円
カラー: 4色

アークテリクス セラタス パンツ
価格: 3万9600円
カラー: 3色

Serratus 特設ページ:
arcteryx.jp/pages/s25-serratus-psiphon

問い合わせ先: 
アークテリクス カスタマーサポートセンター/アメアスポーツジャパン
arcteryx.jp/
※同コンセプト、同素材で仕様の異なるウィメンズモデル「サイフォン フーディ」「サイフォンパンツ」もある