セバスティアン・ベルト、エル・キャピタンのDawn Wall 第4登(前編)

planetmountain.com
訳=羽鎌田学

2025年1月31日午前8時、ベルギー人クライマー、セバスティアン・ベルトが、フランス人女性クライマー、ソリーヌ・ケンツェルをビレイヤーに14日間かけて、ヨセミテ、エル・キャピタンのトップに到達し、桁外れのDawn Wallをフリーで完登した4人目のクライマーとなった。

巨大な岩の塊、エル・キャピタンの南東面に引かれた世界最難のこのビッグウォール・フリールートは、トミー・コールドウェルとケビン・ジョージソンが2014年12月27日から2015年1月14日までの19日間にわたるクライミングの末に初登し、その後、アダム・オンドラが2016年11月14日から21日までをかけて再登してクライミング界を驚かせた。

今回再登に成功したセブは、経験豊富なビッグウォールクライマーであり、この900mにもおよぶラインには、やはりベルギー人クライマーであるシーベ・ファンヘーエと共に2年前に初めてトライし、核心のひとつである14ピッチ目を登ることができず敗退していた。その他、彼は、2016年にはシモン・カスターニェとHeart Routeフリー第2登、2017年には前出のシーベ・ファンヘーエとFreeriderワンデイ、2019年にはフリー再登者が稀なThe Nose、また2022年にはGolden GateとEl Niñoのフリーアッセントに成功している。

帆船と公共機関でヨセミテへ

2022年と同様に、二酸化炭素排出量削減運動に共鳴するセブは帆船でアメリカ大陸まで旅をした。50日間の航海の後、彼とソリーヌ・ケンツェル、マチュー・ミケル、エイダン・ロバーツ、ギヨーム・リオンの面々はパナマに到着。船上に設置したトレーニングボードのおかげで、セブは体調を維持することができた。パナマからは、セブとソリーヌは公共交通機関で中央アメリカとメキシコを旅し、11月末にヨセミテに到着。

セブは当初、才能豊かなアメリカ人若手クライマー、コナー・ハーソンとペアを組み、直ちにDawn Wallに取り付き、ルートの攻略に取り掛かった。ルート中程の核心パートには、9aとされる2ピッチがあり、その後に8c+ピッチが連続する。セブは、次のように説明する。

「3、4週間(実質15日)かけて、固定ロープを張り、それを何百メートルもユマーリングして登り、ホールバッグを吊り上げ、核心ピッチを攻略しました。Dawn Wallは変わっていませんでした。それを登ることは依然として規模の大きな企てで、プロセスのすべてが大変な作業でした。クライミング自体はもちろん、凍えるような冬の気温と南向きの壁が太陽にさらされた時の高温、絶え間ない露出感、不安定なプロテクション、落氷などなど」

この最初の1カ月間の努力で、セブはついに2年前に行き詰まった最初の9aピッチの核心を解明し、高難度パートのほぼすべての問題をクリアしたが、2人は疲れ果てていた。彼らはトライを断念し、コナーは1月初旬にエンジニアの勉強に戻ることにし、セブは先ずはビショップでボルダリングをして1週間過ごし、その後ほぼ2週間の完全レストを取ることにした。

総重量130Kg

そして1月。珍しく乾燥した天気がしばらくの間続くという予報だった。それゆえに、まだ準備万端ではなかったが、ソリーヌ・ケンツェルがワンプッシュでのトライのためのサポートを申し出てくれた時、セブはこのチャンスを逃すわけにはいかないと判断。また彼は、「たとえトライが失敗しても、春の終わりにもう一度挑戦すればいいし、ワンプッシュでのトライに挑戦することが、いつかDawn Wallを完登するための最高の準備になる」とも考えた。そこで、1月12日、彼は2週間の自給自足に必要な総重量が130kgにもなる水、食料、ギアを、地上400mのポータレッジまで運ぶという単独ミッションに乗り出した。これには丸一日かかり、体力をすべて消耗しただけでなく、腰を傷めてしまったようだった。腰に激しい痛みを感じ、クライミングを再開する前に4日間の完全レストが必要だった。

1月17日金曜日午前5時、セブとソリーヌは壁に取り付く。カメラを構えて彼らを追うのはアレックス・エガーモンツ。セブは最初の13ピッチを3日目のレスト日を挟んだ最初の4日間で登る。高難度ピッチのいくつかでは何度もトライを重ねる必要があったが、その後、1日のレストを挟み最初の核心である14ピッチ目にトライ。コンディションが鍵となることを知っていた彼は、6日目の日の出前に起きてムーブを復習し、最初のレッドポイント・トライに挑む。

「すべてが簡単に感じられ、流れるように登っていくと、あっという間に目の前に最後の核心がありました。これはもらったなと思い、左への大きなムーブに入りました。でも、最後のホールドに手を伸ばした瞬間に、足が滑ってしまったのです。悔しさで爆発しそうになりました」

20分後に、彼は再び集中し、2回目のトライ。しかし、またしても同じ最後のムーブで足が滑る。すでに太陽が壁に当たっていた。ポータレッジに戻ると、腰の痛みが再び悪化し、丸2日間休むことを余儀なくされた。

14ピッチ目に成功

9日目、トライ再開。

「朝、目を覚ますと、腰の調子は良くなっていました。完全に治ったわけではありませんが、鎮痛剤を飲んだおかげで、何とかなる程度の痛みでした。寒くて、空は雲に覆われていました。それは申し分のないコンディションでした。ウォーミングアップも兼ねて最後の核心ムーブをおさらいしながら、なぜ何度も足が滑ってしまったのかを突き止めようとしました。そして解決策を見つけたのです。すべては足の位置の問題だったのです」

しかしながら、その日最初は運が味方してくれず、なんと9回もトライした挙句、彼は絶望し始めた。彼は、その日の日記に次のように書き込んだ。

「すでに午後4時半。5時には吹雪き始めるようだ。最後のワントライ。できると自分に言い聞かせる。10回目のトライだった。一番ぎこちない登りだったが、最初の核心を突破し、第2の核心もクリア。そして第3の核心手前の最後のレストポイントに着いた時、なんと雪が舞い始める。シューズと指が濡れる。気分は絶望的。でも失うものは何もない。やってみるだけだ。どうにか、大きなムーブを成功させる。足は滑ることなく、そのままだった。最後のジャグに手を伸ばす。まだ体は壁に張り付いている。やったぞ!14ピッチ目を雪の降る中で登ったのだ。純粋な幸福感。ポータレッジに戻ると吹雪が猛威を振るい始めていたが、私は恍惚とした気分に浸っていた」

14ピッチ目のRPにより、セブはついに、Dawn Wallの2番目の大きな難関である15ピッチ目への扉を開けた。2015年にケビン・ジョージソンが初登攀中に一時足止めを食らった場所だ。このピッチは5.14c/dとされている。辛いグレーディングで知られるセブは次のように説明する。

「個人的には5.14cに近いと思いますが、非常にテクニカルで指を酷使するクライミングでした。5.13dぐらいの長いアプローチの後に、足と指のコントロールを極限まで高めなければならない正確さが要求されるボルダリーなムーブが続くのです」

壁に取り付いてから10日目、手順をチェックした後、このピッチをRPするにはたった3回のトライで十分だった。彼はこう述べている。

「核心で指を必要以上に強く握りしめ、最後のムーブに集中し続けることによって、うまくいったのです。本当にうれしかったです。ようやく完登が現実味を帯びてきて、興奮していました」

>> 後編 「Loop Picthを2ピッチで〜完登」へ

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