セバスティアン・ベルト、フランス、アノでLe Voyage E10をフラッシュ

planetmountain.com
訳=羽鎌田学

ベルギー人クライマー、セバスティアン・ベルトが、フランスのアノにあるLe Voyage(8b+/E10)のフラッシュに成功した。2017年にジェームス・ピアソンによって初登されたこのルートは、フランス最難のトラッドルートの一本とされている。

4月11日、セブ・ベルトは、南仏ニースの北西近くに位置するアノの岩場にあるLe Voyage(8b+/E10)を見事フラッシュした。このルートは、ジェームズの初登以後ほぼ4年間休眠状態にあったが、2021年5月にヤーコポ・ラルケル、シーベ・ファンヘーエ、バルバラ・ツァンガールが立て続けに再登した(ヤーコポとシーベは同じ日に、バルバラは翌日)。その後、2022年3月にはシモン・ヴェルフランジェ(フランス)、2023年1月には、ヨナス・シルト(スイス)、今年に入って3月にはスティーブ・マクルーア(英国)、そしてこの4月上旬には、イグナシオ・ムレーロ(スペイン)、マチュー・ミケル(フランス)が続き、セブがフラッシュした同日にはロビー・フィリップス(英国)も登っている。

 
 
 
 
 
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2016年にエル・キャピタンのHeart Routeを第2登後、目立った成果を挙げていなかったセブだが、3年後にはやはりエル・キャピタンのThe Noseをフリーで登り、再び注目を浴びるようになった。その後、ライクラのピンクのタイツを愛用することと高難度マルチピッチルートの誰をもうならせる素早い再登で名を馳せた。

2020年のAlpine Trilogy(End of Silence、Des Kaisers neue Kleider、Silbergeier全3本の8b+マルチピッチルート)、2021年のスイス、ラウターブルンネン渓谷シュタルデフリューでのFly(8c、550m)、同年のスペイン、カタルーニャのモンセラッでのArco Iris(8c+、200m)といったルートが、彼の登攀歴に含まれている。今回のLe Voyageのフラッシュは、2016年にアレクサンダー・メゴスがカナダのレイク・ルイーズの岩場にあるトラッドルート、The Path(5.14a/8b+)をフラッシュしたのに肩を並べる、歴代最難のフラッシュであることは言うまでもない。

ベルトさん、おめでとうございます!Le Voyageのフラッシュ、お見事でした。このルートをフラッシュしようと考えたのは、いつ頃ですか?

セブ・ベルト:そうですね、最初は、2017年にジェームズが初登したという記事を読んで、登ろうと考えました。岩もそうですが、ルートもすごそうでした。その後、ヤーコポ、シーベ、バルバラの3人が登るビデオを見たとき、このルートをグランドアップでトライすることは素晴らしいチャレンジになるに違いないと思うようになりました。そしてその瞬間から、心の奥底で、フラッシュでトライしなくてはならないと考え続けてきました。

どうして計画の実行が今に至ったのですか?

セブ・ベルト:アノを訪れることを長い間待ち望んでいたのですが、この春、ロビー・フィリップスがアノの同じルートにトライしたいと言ってきた時、フラッシュで登るいい機会だと考えました。私の計画は、彼と一緒に行き、彼がルートを登るのを観察し、できる限り多くの情報を得てから、フラッシュに挑戦することでした。

ルートのオブザべには、どれくらいの時間をかけたのでしょうか?

セブ・ベルト:今週の初め、アノで2日間過ごしたのですが、丸一日はロビーとマチュー・ミケルがLe Voyageに取り付いていろいろ探っているのを見ながら過ごしました。もちろん、ムーブ、ギア、レストポイント、写真やビデオのアングル等、ありとあらゆるものについて、できる限り多くの情報を手に入れるためです。その日にトライしようかとも一瞬考えましたが、自分にもう少し待てと言い聞かせました。そして次の日にフラッシュに挑戦したのです。

では、ルートに取付く前に、すでにどの程度ルートについてご存知だったのでしょうか?

セブ・ベルト:トライの前に、私は基本的にこのルートについて何もかも知っていました。ほぼすべてと言ってもいいでしょう。必要なすべてのギアを把握し、ハーネスのラックにギアを適切なサイドに適切な順序で掛けて、すべてのムーブとその手順を一手一手イメージできていました。ただひとつわからなかったのは、核心部でどの手順を使うかでした。核心部にはさまざまな登り方があり、トライ開始前の段階ではまだ決めかねていました。ですから、登っている最中に難しい選択をしなければならないとは思っていました。

それが、まさにあなたがなされたことですね!

セブ・ベルト:そうです。私が登っている間、周りはとても静かで、誰もあまり口を利きませんでした。あのロビーもあまり話さなかったし、ビレイをしていたマチューも口を開きませんでした。僕が何かミスをしたら言ってくれ、そうしたら手順を変えるかもしれない、と彼らに言っておいたのですが、実際、最後の部分を除けば、彼らはあまり声を出しませんでした。ルートはクラックを登って終わりますが、それほど難しくはなく、おそらく7a程度だったでしょう。しかし、登りは確かに少しトリッキーで、フィックスロープにぶら下がって私を撮影していたロビーがどっちに登っていけばいいのかを教えてくれました。

かなり奮闘的なクライミングでしたか?

セブ・ベルト:最終的には実にうまく登れたとは考えています。というのも、ウォームアップで登った2本目の7aで落ちてしまったのです。そして登り始めた時、やはりスタートムーブのひとつで足を滑らせて、なんとか持ちこたえたのですが、ほとんど落ちそうになってしまったのです。最初のパートは7aのクラックで、全然うまく登れず、緊張で体が震えていました。しかし、その後、いいレッジに辿り着き、そこでレストして、ハードなパートに取りかかるために集中し直すことができたのです。そのハードなパートでは、私は迷うことなく、またミスをおかすこともなく、素早く登っていくことができました。本当にいい流れに乗れたし、パワーにも余裕があって、限界に達してしまうようなことも一度もありませんでした。そして、すべてのギアをセットしながらも、集中力を最後まで維持することができました。

どれくらいの時間がかかったのでしょうか?

セブ・ベルト:さあ、どのくらいだったかな、たぶん40分ぐらいでしょうか?レストできるところではしっかりレストして、時間をかけて登りましたが、ハードなパートは速く登ることを心がけました。

過去に、他のハードなルートをフラッシュしたことはありますか?

セブ・ベルト:スポートでフラッシュした一番難しいルートは、スペイン、オリアナで登ったMind Control(8c)です。オンサイトした一番難しいルートは、メキシコで登った8b+です。もちろん、エル・キャップのようなマルチピッチルートの上部でギアをセットしながら登って、ハードなピッチをフラッシュしたこともあります。しかし、トライする前にできるだけ多くの情報を得て、ルートを入念に研究できたのは、今回が初めてです。

自分の限界に達してしまうようなこともなかったとおっしゃっていましたが、確かにこの1月にはご自身にとって2本目の9a+となったLa Ramblaを登り、昨年には世界最難のビッグウォール・マルチピッチルート、エル・キャピタンのDawn Wallを再登寸前まで迫ったことを考えれば、調子がいいのは明らかなようです。

セブ・ベルト:フラッシュで登ったし、Eグレードの経験もあまりないので、グレードについてコメントするのは難しいですが、このルートは8b+にしてはかなり簡単だという感じはします。とはいえ、今のところ本当に調子がいいということは言えます。これからの成果を楽しみにしていて下さい。

では、他のものと比べて、ベルトさんご自身は今回のクライミングをどのように評価されていますか?

セブ・ベルト:私個人としては、本当に素晴らしい成果を挙げることができたと考えています。実際のクライミングはもちろんのこと、出発前に行ったすべての努力を誇りに思います。そして、何はさておき、フラッシュに挑戦したことをまずは誇りに思います。

というのは…?

セブ・ベルト:あえて何かに立ち向かうのは決して容易なことではなく、大きな目標はとても恐ろしいものです。実際、私はひどく心配し、大変緊張していました。あの日は気温も高くてコンディションはそれほど良くなかったのですが、あえて自分にチャンスを与えてみようとしたのです。

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